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Day4
12:00 大久保
BOSEのスピーカーから湧き出るアップテンポなサウンドに合わせて、
「シュッ、シュッ」っと規則的な声が聞こえる。
100kgのバーベルでベンチプレスをするヒサキがそこにいた。
鍛え抜かれた上腕三頭筋と胸筋を見れば、たいがいのヤツは怯んで逃げてしまう。
それでもケンカを売るやつはただのバカだ。
「王岱明、レイナ・・・あの事件のことを忘れたくても向こうから勝手に近づいてきやがる」ヒサキはそう呟いた。
2セット目のベンチプレスに入ろうとしたころ、ようやく頭がさえてきた。
文君酒家、鮮血にまみれたテーブル、無造作に転がった4本の指、
苦痛と恐怖が混在した目。自らヨウと名乗った中国人が激痛に耐えかねて白状した事を思い出していた。
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「フォンさん、渋谷から流れてきたヒト。
昔、新宿のボスだった王さんってヒトの幹部してたネ。
3年前に王さん死んで渋谷に逃げたけど、去年戻ってきた。」
「何で、奴は新宿に戻ってこれだんだ?ああっ!」
「王さんの残した資金を持って、渋谷で派手にクスリと売春やって儲けたヨ。それで組織大きくして戻ってきたのネ」
「奴はアゲハをどこっから仕入れるんだ?」
「本当に私は知らないヨ。私はこのお店仕切っているだけネ。お客選んで上に通すだけ。フォンさんは上のホテルで客にブツ売ってるよ」
「テメェもったいぶってんじゃねーぞコラァ」
「ホントこれ以上何も知らないネ。オニサン、タスケテ、ワタシ死んじゃう・・・・・・」。
そこまでいうと激痛に耐え切れず気を失った。
切断された指からドクドクと溢れる血はまったく止まらない。
ついさっきまでうまそうに蟹を貪り食ってたのときと別人のように顔を歪めたをヨウ。
ヒサキは卓上の小瓶を取り上げると骨がむき出しになった指めがけて
液体を勢いよくぶちまた。
「キィエー」という絶叫をとともにヨウは覚醒した。
「おい、演技してんじゃねーぞ」。無表情にいい放つヒサキに
ヨウはおそろしいほどの殺気を感じた。
「殺される。この日本人、ホンキで殺すつもりでいる」。
体中の血が凍りつくほどの恐怖は手の痛みを忘れさせた。
「フォンさんは言ってたヨ。アゲハもって来たのは日本人、ものすごく危ない奴だって。で、でもアゲハ創ったは中国人だって、その男は言ってたって」
「他に知ってることがあるだろうが」。
バキンッという鈍い音とともに円卓が真っ二つに割れた。
ヒサキが拳を叩きつけたのだ。
「ヒィ〜、オニサン、知ってることもうない、全部言ったヨ。だから殺さないデ・・・」
「ひとつだけ教えといてやる。王を殺したのは、お・れ・だ」
「あ、あんたぁー。ひ、ひ、ヒサキ」そう叫ぶヨウの声は恐怖のため完全に裏返っていた。
「フォンに言っとけ!俺は後輩殺られて、気が立ってんだ。てめえも必ずぶっ潰すってな」
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13:30 新宿
明治通りから新目白通りに入った。快調なペースで走る。
トレーニングの仕上げは必ずランニングと必ず決めていた。
山手通を中野方面に曲がるころには体もでき、
ペースをさらに上げた。中央線の立体交差を超えたころ
1台の車がの横を併走しゆっくりと止まった。
「なんだテメぇ」と威嚇するような視線を飛ばしたヒサキの前に
現われたのは山根だった。
「おーコワ。そんな目してると女、寄ってこないよ」
「余計な・・・お世話・・・ッスよ。」。
タバコのヤミで黄ばんだ歯を見せるようにニヤッと
笑うと山根は車に乗り込んだ。
「ちょっと見せたいモンがあるんだ。まぁ乗ってくれや」。
ヒサキはしばらくガードレールに腰をかけ、
息を整えてから助手席に座った。
土曜日の昼間ということもあり山手通りは順調に流れている。
「やっぱ暖かくなるってのはいいねぇ。
若いお姉ちゃんたちが薄着になって、いろんなところで目の保養できるよ」。
咥えタバコしながらくだらない世間話をする山根の車は
いつしか港区に入っていた。
「ちょっとどこまで行くんっスか。オレもヒマじゃないんっスけど」
「ああ、じゃ、この辺りでいいか」。
普段はトラックが頻繁に出入りする芝浦埠頭も
今日はひっそりとしている。
「ダッシュボードの中のブツ、見てくれや」。
そこには1枚の写真が入っていた。
「何なんすか、このタトゥの写真。『我・們・一・同・死・的・時・候』て彫ってあるけど」
「実は12時間前に殺しがあってなぁ・・・・・・」。
シュボッ。殺人事件のあらましを話し終わると山根は最後にこうつけ加えた。
「スマイルのカギはこのタトゥが握っているかもな」。
16:00 渋谷
コーヒーを飲みながらキーボードで『我們一同死的時候』と入力する。
「さぁ、どんな意味なんだい」。
山根と別てからというもの、ずっと頭の中を8文字のタトゥが渦巻いていた。
ヒサキはインターネットカフェに入り翻訳サイトを探した。Enterキーを叩くとすぐに訳文がでてきた。
『我們一同死的時候→我々が死ぬときは共に』。
「物騒だな、コイツは」。
16:30 錦糸町
カチッ。
「被験者が外出。いたって正常の様子。予定通りだ。これから後をつける」。
カチッ。
マイクをジャケットにしまうと男は女性の後をつけていく。
女性は、駅の方に向かい足早に歩いていく。途中、金物屋を見つけると女性は立ち止まった。中を覗き込んで、そのまま店内に消えていく。
女性は店内を物色すると、一番大きな牛刀を指差した。
「コレください」
支払いを済ませて、女性は再び駅に向かって歩きだした。
「包丁、電車。ふっ、おあつらえ向きだな」
男は不気味な笑みを浮かべながら呟いた。
女性は切符を買って改札を通り、新宿方面行きの電車に乗り込む。
男も、女性の後ろから電車に乗り、彼女が見える位置に立つ。
「どこで、ショーが行われるのか。ゾクゾクするな」
男はそう考えていた。
17:00錦糸町
サビついた階段をゆっくり上っていった。
古ぼけた木造のアパートの2階。
日当たりが悪すぎる窓にはいつ乾くのかサッパリわからない
洗濯物が干してある。
そこには何人かで共同生活を営んでいるであろう量がかかっている。
「こんなタコ部屋に押し込まれてかわいそうに。
外国人の娼婦ってのもラクじゃないな。
考えてみりゃ国へ帰れば日本で稼いだ金で相当ラクできるんだろ。
2、3年のタコ部屋暮らしぐらい屁でもないか」。
チャイニーズマフィアから教わった要領で
ピッキングすると簡単にドアが開いた。
よろめくように男が出てきた。
「予想以上に強力だ。人間の肉を食事がわりに食えるなんて・・・。
流しにあった脳は半分失われていた・・・。
あの娼婦、顔色ひとつ変えずに部屋を出ていったのに中でこんな
おぞましい行為をしていたなんて。高揚感が絶頂に達したとき、
人間であることをやめ1匹の獣になりさがってしまう新型スマイル。
ああ神よ、私はなんという薬を作り出してしてしまったのでしょう」。
階段を下りると男はうずくまり胃の中のものをすべて吐きだした。
「スマイルは確かに進化を遂げた。
プロトタイプよりもハードな症状を引き起こすモンスターに。
だが人は超えてはいけない一線があるんだ。
踏み込んではいけない領域が。
善悪の区別がつき理性を持って生きるからこそ人間のはずなんだ」。
このスマイルを量産させるわけにはいかない。誰にも飲ましてはいけない。
そう決意すると男は買い物客でごった返す商店街の中へと消えていった。
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