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Day4
18:00 新宿
新宿駅は帰宅途中の会社員や、これから飲みに行こうとする若者たちなどでごった返していた。フィリピン人の女性がその人込みの中を歩いている。
女性はおもむろに、先ほど買った包丁をかばんから取り出した。
「18時1分。被験者は行動に移る模様。パーティの始まりだ」
その女性を錦糸町から尾行していた男はテープレコーダーにそう吹き込んだ。
女性は包丁を振りかざすと、いきなり前を歩く派手な原色のトップスを着た女子高校生に振り下ろしていく。
「い、痛ぁ―い」肩に包丁を突きたてられた女子高校生は絶叫した。
痛さのあまり、その女性を座りこむが、その頭に向けて再び包丁を突き立てていく。
包丁が頭蓋骨にめり込み、女子高校生は痙攣を起こしたまま倒れた。
フィリピン女性は穏やかな笑みを浮かべながら、その体にまたがり目に指を突っ込んで眼球を取りだした。
あまりに惨事に周りの人間は止めるでもなく、ただ立ちすくんで見ているだけだ。
目玉を取り出すとフィリピン女性は、それを口に入れて噛んだ。
彼女の顔に浮かぶ穏やかな笑みと、目玉を食うという行為のギャップが一層凄惨さを際立たせていた。
18:30 浅草
錦糸町のアパートで狂気の現場を目撃した男は、多くの人が行き交う浅草の仲見世商店街をうつろな表情で歩いていた。小さなショルダーバッグを両手で抱きかかえるように持ちながら、なにかに怯えるように回りを見渡し、口元は細かく震えている。
不意に左耳に付けられた小さなイヤホンが鳴り出す。
「おい三木。どうしたんだ? 応答しろ!」
「三木クン、返事してくれないと、僕、淋しいよ」
イヤホンから聴こえる声に飛び上がるように反応した彼は、イヤホンをかきむしるように取って路上に投げつけヒステリックに数回踏みつけて、小走りに人混みに消えていく。
19:30 渋谷
インターネット・カフェを出たヒサキは、しばらくDJ御用達の輸入盤屋などを回って時間を潰した後に、行きつけの店でジンビームのロックを飲みながら血の滴るような500gのステーキをむさぼるように食べていた。
不意にデニムの尻ポケットに振動を感じて、右手で携帯を取り出す。
「はい、ヒサキ」
「俺だ、山根だ」
「どうしたんっス? 食事中なんですけど……」
「スマイルだよ。今度は新宿で、外国人の女が女子高生の目玉を食いやがった。さらにさ、そいつの家にさっき警察が捜査に入ったんだけどさ、家の中にはバラバラに食い散らかされた男の内蔵や腕や足やペニスや散乱していたというんだ……」
「カンベンしてくださいよ! いまステーキ食ってるんですよ……」
「ホーッ、お前ほどの男が、こんなことで弱音吐くとはなぁー……鬼の目にもなんとかっヤツか?」
山根が少しうれしそうに言う。
「で、女はどうなったんっスか?」
「ああ、警察に連行されて、今尋問中だがな、何を聞いてもただ笑ってるだけだとさ。とにかくステーキなんか食ってるヒマがあったら、早くスマイルの出どころを突き止めてくれよ。高いギャラ払っているんだからよ。それにもうステーキ食えねぇーだろ、フフ」
山根の笑い声を聞いた瞬間に、ヒサキは一方的に電話を切った。
19:30 水道橋
夜間照明に浮かび上がる東京ドームの敷地内を1人の男が小走りに走っていく。その後ろからは数人の男が足早に追っている。男が追っている男たちを見るために後ろをふり返った時に、前方の柱の影から数人の男が現れた。
逃げていた男は、突然前を遮った男たちに気づいてその場に立ちつくすと、前後から男たちが駆け寄って彼を取り囲む。
その中のリーダーらしきストライプ・スーツの男が話しかけた。
「三木、お前、俺たちから逃げられると思っているんか? 甘いなぁ」
「飯田さん許して……ウァー!!」
三木は、男たちに体当たりをして囲みを突破しようよしたが、すぐに屈強な男2人に両手を押さえられてしまう。
三木に近づいた飯田は、スーツの胸ポケットを探って小さなレシーバーを取り出した。
「このレシーバーにはなぁ、GPSが仕込んであるんだよ。そんなことにも気付かないとは、国立大出でIQ200以上のアンタのアタマの回転もたいしたことないよな」
飯田はレシーバーを自分のジャケットのポケットにしまうと、代わり取り出したケースから小さなカプセルを1個出し、それを三木の鼻先でプチンと割った。数秒もしないうちに三木が頭をうなだれる。
20:30 大久保
ステーキを平らげて空腹を満たしたヒサキは、愛車のKATANAを駅近くの韓国料理店の駐車場に突っ込むと、店の中に入っていく。
店の中で働いていた若者がヒサキを見ると笑いかけた。
「悪いね、ヨンちゃん。またちょっとバイク置かせてよ」
「いいっスよ。ウチはなん日でもオッケーですから……」
「こんどまたカワイイ子紹介するよ」
「そっちの方はぜひヨロシク!」
ヒサキは笑いながら軽くウインクすると店を出た。
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しばらく歩くと、ほのかな街灯の中にコンクリートの地肌をさらす、そう高くないビルが見えてきた。1階の3分の2ほどは駐車場になっており、その脇に入り口が見える。
このビルは建築中にバブルが弾けて工事が止まってしまったラブホテルを、そのまま賃貸マンションに改造して格安に貸しているものだった。ヒサキの部屋はその最上階の5階だ。
ビルに近づいたヒサキはまず入り口と駐車場の様子をうかがう。
人の気配がないことを確かめると、入り口と反対側の駐車場の隅にある非常階段の柵を乗り越えてゆっくりと5階まで登っていく。そして、5階のフロアーに通じる扉を静かに開けて中をのぞいた。
5階の廊下には人の気配はない。しかし、すぐ目前のヒサキの部屋のドアの下に爪楊枝を折った小さな木片が落ちているのを見逃さなかった。彼は、"クスッ"と声を立てずに笑った。
「やっぱり来やがったな……っていうか、こんなベタな仕掛けに引っかかるとは中国マフィアも大したことないかな?」
と心の中でつぶやきながら再び"クスッ"と笑う。屋上に出たヒサキは、足音を殺して屋上の縁に行き、そこに寝そべりながら縁に手をかけて用心深く下をのぞき込んだ。
下には小さなベランダと部屋に通じるアルミサッシの窓があり、数10メートル離れたラブホテルのネオンが、部屋の中を薄いブルーに照らし出していた。
青い闇の中に数人の人気配が見て取れる。ヒサキは窓の死角を利用して音もなくベランダに降りた立ち、中の音に聞き耳を立てた。
その瞬間に1人の男がビクッと震えて、ポケットから着信ランプが点滅している携帯を取り出す。
「ハイ、ユン×△。ああ○△×さん。イヤ、ヒサキはマダ……。ミキが□△×……ワカリマシタ。スグ×○□に行きマス……」
中国人にしては流ちょうな日本語を話す男だったが、窓が締まっていたので話はとぎれとぎれにしか聞こえなかった。
電話を切った男は、今度は早口な中国語で仲間と二言三言会話を交わすと、1人の男と一緒にそっと部屋を出て行った。
残った3人の男たちが、1人は拳銃、もう1人は特大のサバイバルナイフ、もう1人は青龍刀を持って入り口の側に潜んでいるのがシルエットでわかる。
ヒサキはデニムの尻ポケットから携帯を取り出した。
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ヒサキの部屋にいる男たちは、息を殺してヒサキの帰りを待っていた。その時、ベランダにピー音が響き渡る。驚いた男たちはいっせいにベランダの方にふり返る。
彼らの目に、ライトを点滅させながらアラームを鳴らしている携帯が飛び込んできた一瞬に、入り口のドアが勢いよく開きヒサキが飛び込んできた。廊下の明かりを頼りに、まず拳銃の男と青龍刀の男の背中を連続して蹴りを入れる。1人は数メートル飛ばされてガラスが激しく割れる音と共に上半身をサッシに突っ込み、もう1人はコンクリート打ちっ放しの壁に激突して顔面を打ち、持っていた青龍刀を落としてしまう。
向き直ったヒサキにナイフをかざした男が突進するが、ヒサキは身体をかわして手刀でナイフを落とし、後ろ蹴りを男の後頭部に食らわせた。男は倒れこんで泡を吹きなが痙攣をはじめる。
彼はそのまま前に進んで窓ガラスで上半身血まみれになっている男の所にいき、拳銃を取り上げてベランダの外に投げ捨て、髪の毛をつかんで壁際で倒れているもう1人の男の所にまで引っぱっていった。壁際の男も鼻が潰れて顔面が血だらけだ。
その男たちを背中合わせに縛り上げようと腕を取った時に、ヒサキは全員の腕に「我・們・一・同・死・的・時・候」という見覚えのある入れ墨が入っているのを見つけた。
「ビンゴ! 新宿で暴れて奴らを刺激したかいがあって、やっとスマイル直結の手がかりに出逢えたようだな……「我・們・一・同・死・的・時・候」か、どーせこんなザコ、痛めつければすぐに喋るに決まってる」
ヒサキはガムテープを取り出し、それぞれの顔にガムテープを2重3重に巻きつけて声を出せないようにすると、床に落ちていた青龍刀を拾い上げ、冷たい光を放つ鋭い刃先を見ながら冷ややかにニヤリと笑った。
23:00百人町
中央線大久保駅と山手線新大久保駅の間にある百人町の中にあるその建物には、「中国茶輸入元・大熊猫商会」という看板が出ている。
その広い地下室の壁際には数人の男が獲物を待つように視線を光らせながら立っていた。いちばん奥の革製のカウチには小太りの中年男がタバコをくゆらせながら座っている。男は吸っていたタバコを親指ではじいて灰を床に落とした。
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その時、大熊猫商会の建物をすこし離れてうかがう人影があった。ヒサキだ。かわいいパンダの絵が描かれたその看板を見て"ククッ"と笑う。
「オマエら、パンダを表に出してればなんでもごまかせると思ってるのかよ」
街路灯の死角を利用してヒサキが建物との距離を詰めようとした時、1台のワンボックスカーが音もなく近づいてきて大熊猫商会の前で止まった。
スライドドアが開くと、中からぐったりと気絶した男がほかの男たちに両肩を支えられながら下ろされる姿が見える。
「オイ、三木。フォンさんがお待ちかねだぞ!」
後から降りてきたスーツの男がうなだれた男の髪の毛を持って顔を上げさせ、どやしつけるように言葉を浴びせた。声をかけられた男は無反応だった。
「三木……さっき俺の部屋でタコ中国人が言っていた"ミキ"というのはあの男のことなのか……?」
ヒサキの動物的なカンのスイッチが再びオンになる。
「三木……それにフォン……ショータイムの始まりかぁ? 見逃す手はないよな……」
ヒサキは気配を殺して、男たちが消えていった大熊猫商会の入り口の方に近づいていった。
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