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23:10百人町
ヒサキは大熊猫商会の入り口の前に立つと、耳を当て中の気配を探る。全神経を聴覚に集中し、人の気配が無いことを感じとった。すぐさま上着の内ポケットから細長い針金のような工具を取り出した。それを使いほんの数秒でピッキングを終えて、スルリと中に入り込みあたりを見渡す。
こんな芸当がサラリとできる理由はヒサキが仕事師を始める際、合鍵屋をやっている後輩が就職祝いにと手ほどきをしてくれたからだ。GSX1100Sを転がし、メカに強い器用なヒサキはすぐにマスターしたのである。
ドアを開けると事務所になっていて、一般の会社に見せかけるためにワザとらしいほどいかにもな事務机が並んでいる。表向きはお茶の輸入をやっていることになっているが、実際はマフィアの事務所なのはすでに調べがついていた。奥にある従業員専用とあるドアの前で立ち止まり気配を探ると、中から怒鳴り声と悲鳴が微かに聞こえてきた。またドアのすぐ側に見張り役であろう男の気配を感じた。そこで事務所側にトイレがあるのを見つけていたヒサキは、トイレに来るのを待ち伏せし、潜入することにした。だがあまりに遅いならばミキの救出が手遅れになるので、危険度は増すが突入するつもりだ。
仕事師の仕事のとき、だいたいヒサキはこんな感じで、その場の状況によって行動を決める。事前に計画を立てても、予測不可能な事態がおこることが多いので意味がないし、なにより行き当たりばったりのほうが性に合っているのだ。この仕事が続いている理由を考えたことがあるが、結論は危険なことや不可能なことに遭うと、血が滾るということになった。つまりは麻薬中毒やアル中といっしょで、デンジャラスジャンキーなのだ。
そんなことにヒサキが思ういをめぐらしていると、ドアが開く気配がした。出てきた男ののどボトケを狙い、手とうを繰り出す。こうすれば声を出さずに相手を昏倒させることができる。倒れてきた男を音がせぬよう受けとめ、床に置く。すぐさま中に入ると、地下への階段が続いていた。。。。。
24:00歌舞伎町
深夜の歓楽街を、まだ幼さが残る1人の少女が歩いていた。身なりは今風のファッションでかなり露出度が高いが、メイクに覆われた素顔の瞳にはピュアな光が宿っている。
「HYE! B.P、マタコレイコウネッ」
道端で客引きをする黒人が、踊りながら声をかけてくる。しばらく歩くと
「べビーピンク、またお店来てよ!」
客を送りに店の前に出てきていたホストから声がかかる。その度に少女は軽くいなしていく。なぜならすべて寝た男なので、もう興味が無いのだ。彼女の名前はベビーピンク、もちろん本名ではないが皆がそう呼ぶ。歌舞伎町の高級クラブに勤めていて、この街をメインに遊びまくっていた。だが今はこの街の男には興味が無い。なぜなら先日友達に誘われ行った渋谷のクラブで、ヒサキと出会って以来ゾッコンなのだ。もちろんその日の内に逆ナンして寝た。いつもならそれでバイバイ、一度寝た男には興味が無くなるベビーピンクだが、なぜかヒサキにはまた無償に会いたいと思うのだ。。。
24:00百人町
地下室へ続く階段を歩きながらヒサキはニヤリと笑っていた。ドアの前で中の気配を探る。しばらく聞いていると、どうやらミキが何かを持って組織から逃げたらしい。それもスマイルにまつわる重要なものを。だが専門用語やチャイ語が混じるため、細かな内容はわからない。面倒になったヒサキは相手も大人数ではないので、突入を決めた。
ドアを静かにピッキングし開けると、猛ダッシュし目に付いた男から順番に片付けていく。ホーム、それも地下室にいたせいか皆油断していて、動きが鈍くヒサキの敵ではなかった。ものの数十秒で5人の男達が床に転がる。武器も取り出さす猶予も与えないほどの電光石火の早業だった。
もはやヒサキ以外に残っているのは天井からソープで吊り下げられてうなだれたミキと、タバコを吸うのも忘れソファーに座り呆然としているフォンだけだ。
ヒサキはまだ気絶せずに呻いている男の顔面に鋭い蹴りを食らわせた。
グシャ
鼻の骨が砕ける嫌な音がした
ヒサキは、フォンを見据えた
「さてと、今度はアンタが尋問される番だぜ、フォン!」
ヒサキはニヤリと笑った。
Day5
0:30 六本木
六本木ヒルズの上層階
東京の夜景を一望できる大きな部屋で、男はワインをくゆらせていた
「Nuits St.Georges 1er "Les Boudots"1995 Noellat」
ワインのラベルに書かれている
このワインは、フランスの農家、ドメーヌ・ノエラのもので、入手困難なことで
有名なものだ
日本では名前が知れていないが、世界的には熱狂的なファンを持っている
カシスのリキュール、レーズンのバックにしたクールで雄豪なタンニンが特徴
男は、その香りに恍惚とした表情を浮かべている
「そろそろ・・・かな」
男は呟いて、携帯を取った
「X」と名前表示された番号に電話をかける
「お客様がおかけになった電話番号は、電波がないところに・・」
ツッ
男は舌打をした
再度かけるが電話は応答しない。
3度目も電話はならない
男はソファから立ち上がると、持っていたグラスを床に叩きつけた。
グラスは割れたがそれだけでは飽き足らず、グラスを足で踏みつけた
「畜生、畜生、何やってやがんだ。この腐れ野郎が」
男は狂気の表情を浮かべて、グラスを踏み続けた
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