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DAY5 12:30 西新宿
ヒサキが教会の礼拝堂に入っていくと、咥えタバコで携帯の画面をのぞき込んでいる山根の後ろ姿が見えた。
「来たか、ヒサキ」
山根は振り向きもせずに携帯を見ている。
「ったく、女子高生のメールはさっぱりわからないぜ。これ……どういう意味なんだよ?」
山根は振り向きながら携帯の画面をヒサキの方にかざす。
「やめてくださいよ! 援交女子高生のメールを読ませるために、わざわざオレを呼び出したんですか?」
「違うに決まっているだろが。スマイルの件はどうなっているんだよ? オマエが派手に暴れてくれているおかげで、オレは後始末が大変なんだよ。最初に約束したこととはいえ、もう少しスマートにできないのか? ヒサキよ」
山根の鋭い視線がヒサキに向けられる。
「あれがオレのやり方なんでね……」
ヒサキはつっぱねるように言った。
「それで、なにかわかったのか? 例の社長から"どうなっているんだ?"って電話がくるんだよ」
鋭かった視線が哀願の色に変わる。
「スマイルは三木ってやつが作ったんですよ。富士製薬に脅されてやったって言ってます」
「富士製薬……って、あの富士製薬か?……そのネタは信用できるのか?」
「間違いないって。三木本人がそう言たんだから……」
ヒサキは憮然として答えるのを聞いて、山根はニヤリと笑った。
「なるほど……ない話じゃないな。実は富士製薬には前々から黒いウワサがあってなぁ。表向きは大手の製薬会社だが、役人を抱き込んで臨床データをねつ造した薬を売っているとか、裏社会とつながってかなりヤバイことをやっているという話もあるんだ。会社は田城とかいう2代目のワンマン社長が仕切っているらしいんだがな……なかなか尻尾がつかめないらしい」
「田城・・最近、成金の六本木ヒルズ族とかで雑誌とかに出てる奴か・・」
ヒサキが鼻先でクスッと笑う。
「それで、オマエ、三木本人に聞いたって……そいつに会ったのか?」
「三木はいまオレの知り合いところにかくまってます。ヤツは富士製薬に脅され善悪の判断がつかなくなるスマイルを作ったんですよ。でも、その効果の恐ろしさにビビッってやがった」
「いやー、そこまでわかったんならもうすぐ一件落着じゃない。さすがヒサキさん、仕事が速いねー。とにかく、田城がスマイルに関わっている証拠をもっと集めてくれ。そしたら、後はオレ達警察が引き受けるからさぁ。で、三木とかいうヤツはいまどこにいるんだ? 三木はこっちで保護した方がいいだろう」
山根は狡猾そうな笑いを浮かべながら尋ねた。
「それはまだ言えないっすね。オレ、サツは信用してないからね」
ヒサキはきっぱりと断る。
「ヒサキよ。警察はそれで済んでも、オレのバイト先の社長の方はそうはいかない。オマエ、プロの仕事人だろ? プロだったら、高いギャラ払っているんだから依頼主にはちゃんと報告してもらわないとな。三木がどこにいるのかぐらいは社長に報告しとかないと、オレの立場もマズくなるんだよ」
「……ベビーピンクっていう知り合いのキャバ嬢のところにいる……」
ヒサキが吐き捨てるように言うと山根は満面の笑顔になった。
13:30 箱崎
ヒサキは愛車のKATANAを飛ばして首都高から京葉道路に入った。目的地は千葉県市原市。富士製薬の田城という名前を聞いて、会っておきたい先輩が思い浮かんだからだ。
13:30 渋谷
渋谷警察署に戻る途中に山根は歩きを止めてタバコに火を付けた。一息深く吸い込んで煙を吐き出すと、おもむろに携帯を取り出し慣れた手つきで短縮番号を押す。
「もしもし山根です。いまお話できますか?……はい、スマイルのことがわかりましたよ、剣崎さん……実はスマイルは……」
15:00 市原市
ヒサキは市原刑務所の面会室にいた。
ガラスで仕切られた向こう側の部屋のドアが開き、グレーの作業服を着た中肉中背の男が入ってきてガラスの前の椅子の腰を下ろす。
「ウッス、羽賀さん、お元気っすか?」
「ああ、ここにもだいぶ慣れてきたからな。そっちどうだ? 最近は……」
「相変わらずっすよ。でも、最近毒にも薬にもならないようなヒップホップがやたら売れているのにはちょっとマイってますけどね」
こう言って、ニヤリと笑いかけた。
「そう言うなよ、ヒサキ。その毒にも薬にもならないようなヒップホップのおかげで、オレは大成功できたんだからな……」
羽賀は、ヒサキがチーマーのパシリをやっていた中学生の頃からの知り合いだった。当時羽賀は渋谷で輸入レコード屋をやっており、そこに出入りしている連中のインディーズ・レコードを出して成功の足がかりをつかみ、結果的に大手プロダクションの社長としての大成功を手にした男だ。
輸入レコード屋に出入りしていたヒサキを弟のように可愛がり、ラッパーになるキッカケを与えてくれたヒサキの恩人だ。しかし、そんな羽賀も脱税事件で実刑判決を受けて、いまはここに収監されている。
「実は今日は羽賀さんに教えて欲しいことがあって来たんっすよ」
「どうした?」
羽賀がヒサキに向かって柔らかい表情を向ける。
「羽賀さん、確か富士製薬の田城って社長と付き合いがあるって言ってましたよね」
「ああ、そんなに親しいわけじゃないけどな」
「田城ってどんなヤツなんっすか?」
「田城か?……あいつはヤバい男だぞ」
「ヤバイって……」
「一見やさ男風だが、とにかく短気だし、キレるとなにをするかわからないからな。仲間同士で行った秘密クラブの女があいつをキレさせたんだ。そしたら、ヤツはその女をとんでもないようなやり方でいたぶってさ、その女は廃人同様だよ」
「でも、それで無事に済んだんですか? そんなことしたら店やっているヤクザが黙っていないでしょう」
ヒサキが率直な疑問をぶつける。
「実は、ヤツは裏社会でも大物なんだよ。表は製薬会社だけど、裏では海外に拠点を作ってあらゆる脱法ドラッグを大量に作っている。それをヤクザやらチャイニーズ・マフィア、イラン人とかに流して表商売よりも大儲けしているからな。そんな絡みで、ヤクザもヤツには手を出せない」
「そうっすか……羽賀さんの話を聞いてヤツの謎が解けました。雑誌とかではけっこうセレブ面して出てますけど、裏はそうとうのワルなんっすね」
「ああ、つき合えばつき合うほど異常さが見えてくる男だよ。だけど、わざわざこんなところまで田城のことを聞きに来るっていうのは……オマエ、いったい何を調べいるんだ?」
羽賀の問いかけにヒサキは笑顔で答えた。
「その話は刑務所に入っている羽賀さんは知らない方がいいっすよ。すいません、ちょっと時間がないので……この埋め合わせはかならずしましから、今日はこれで失礼します」というなり、ヒサキはあ然とする羽賀を残してそそくさと面会室を出て行った。
15:00 六本木
六本木ヒルズの高層階にある社長室ある机の上で携帯が振動音を立てる。
「はい」
男が携帯を取り上げて電話に出た。
「社長、三木の居所がわかりました。キャバ嬢のところに匿われてるそうです」
「ホントか? その情報はどこから入ったんだ」
社長と呼ばれた男が低く響く。
「例の剣崎のところに送り込んでるヤツからいま連絡が来たんです。どうやら三木がスマイルのことを喋ったらしいですよ。早く手を打たないとマズイですね」
「わかった。そうしよう。で、そのキャバ嬢はどこにいるんだ?」
男はヘビーピンクのマンションの所在を聞き電話を切った。すぐ別のところに電話かける。
「陳か? オレだ、田城だ。三木の居場所が分かった。ベビーピンクというキャバ嬢のところにいるから、すぐに連れてこい。あと剣崎がスマイルのこと知ったようだから、剣崎には消えてもらえ。いいか、今度は失敗するなよ」
男は一方的に命令すると電話を切った。
16:00 代官山
"ピンポーン"……ベビーピンクの部屋のインターホンが鳴った。
「ハイ……」
彼女が出ると、モニターに制服を着た男が大きな箱を抱えて立っている姿が映し出され、愛想のいい明るい声が聞こえてきた。
「宅送便ですがー、荷物のお届けでーす」
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